2008年7月2日水曜日

ドナー登録

疲れて電車に乗り込んだときに、空(あ)いている席がないと、嘆息(たんそく)したくなる。
疲れていなくても、遠距離通勤者にとって電車は恰好(かっこう)の読書スペースなので、出来れば座りたい。
空(す)いているのにキッチリ席が埋まっていると、見回して
「お前は次で降りるのか?どこで降りるのじゃ?」
と、訊きたくなる。
所謂(いわゆる)フォーク並びができないのだから、次の駅でドッと乗ってこられると、先に電車に乗り込んでいたアドヴァンテージは忽(たちま)ち失われてしまう。

逆にうまく座れたときも、座りたいモードギンギンのサラリーマンが、タタタと早足で私の前の吊り革を確保するときがある。
私は、
「あーあ、私は遠距離通勤なのだよ。君はまだまだ甘いな」
と、心の中で嘯(うそぶ)く。
根(ね)が善良そうな人だと、わざと文庫本を取り出して“私はまだまだですよ”という信号を送ってあげるときもあるが、私に対して
「早く降りろよ」
と、目でメッセージを送る輩(やから)には、降りないときでも駅が近づくと
「さぁてと。。。」
と、云う嘘のメッセージを発し、読んでいた新聞などを鞄(かばん)に仕舞い、期待させる。
相手が
「やれやれ、やっとこいつ降りるのか」
と、云う安堵(あんど)の表情を見せたのを見計らい、徐(おもむろ)に分厚い単行本を取り出す。
安堵から落胆への移行が私に伝わってくる。
そんな悪戯(いたずら)は、たまにしかしないが。

最近はSuicaシステムなど、電子データが組み込まれた定期券が普及してきた。
そのうち切符もそうなるだろう。
一人一人の下車駅は判らないにしても、一人一人が電車に乗っている区間データはあるわけだ。
それを電車内で読み取るシステムと、その情報を提供するサービスがあったら便利だと思う。
「あっ、このサラリーマンは東京・大磯の定期か。随分遠いな」
「おっ、この学生は品川・川崎やん?よしよし」
と、その席の前に立っていれば、川崎で座れる確率が高いというわけだ。

ただ
“この人は○○駅で降りたところに住んでいるようだ”
“この人の勤務先は○○駅で降りていくのか”
などの情報を開示してしまうことになるが、下車駅から乗り換えする場合もある。
また、その人が降りるときには、その駅までだ、ということはそのときには目で見て分かるのだ。
だから、この程度の情報開示なら構わないのではないだろうか。

とはいえ、心理的に抵抗のある人も多いだろう。
そういう場合は、定期券や切符を買う時に、“開示してもかまいませんよ”と、ボタンひとつでの申告制にすればいい。
そう、下車駅のドナー登録制度だ。

私は屹度(きつと)申告する。
遠距離通勤と分かり、“ギンギン”の人が寄ってこなくなる。

0 件のコメント: