2008年7月13日日曜日

仮面の告白

三島由紀夫の名作のひとつ『仮面の告白』を読了した。
自伝的小説とのことだが、よくここまで書けたものだと感心した。
要はホモであることのカミングアウト本なのだが、主人公が逞(たくま)しい男の体に欲情する描写は気持ち悪いの一語に尽きる。
しかし、それにもまして悪魔の儀式のように人を傷つけるおどろおどろしい想像シーンもあって、私はこんな本をカバーもつけずに電車で読んでいて変な目で見られていないだろうか、と思わず見回したものだ。
発禁になっていないのが不思議なくらいの本だ。

そんな中でもニヤリとする記述が一箇所だけあった。
主人公は一丁前に園子と謂(い)う女性と恋に落ちている。(ふりをしているのだが)
本作の終わりの方で主人公は園子に接吻(せっぷん)をする。
場所は、長野だったか、とあるゴルフ場の黄色い野菊の草むらだ。
翌日も野菊が踏み荒らされた同じ場所で接吻する。
次の日には主人公は帰京する。
園子は、一人でその場所に行く。
園子は、踏み荒らされた野菊を見る。
ただそれだけのことなのだが、こういう感受性は大好きだ。

もう黴(かび)が生えるくらい随分昔のことだが、、、
さっきまで彼女が部屋にいた痕跡(こんせき)、例えば二人で食べたラーメン鉢が残っている、忘れていった髪留めが無造作に転がっている、メモ用紙に書いた落書き。
そんな“さっきまで彼女がいたという”物的証拠は、なんとも云えないものだ。

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