風呂に入る前にはメガネの手入れをする。
手入れといっても、適当に拭く程度だ。
独身時代の癖なのか、単に適当なのか、目の前でヒラヒラしているもの
たとえば下着であっても、タオルであっても、Tシャツであっても
それでちゃちゃっと拭いてしまう。
しかしメガネを外していてよく見えなかったこともあるが
不覚にも今夜はその姿を細君に見られてしまった。
「ちょっと、なにやってんの?!」
「え?いや、なに」
「いま、タオルでメガネ拭いてなかった?しかも洗濯の終わったキレイなタオルで」
「あっ、そうかもしれない」
「そうかもしれないって、そうじゃない!」
「いや、まぁ、袖ふれあうも他生の縁、てなことを言って、昔からほら」
「なに、わけのわからないこと言ってんの?!」
「いや、ほら、目の前でヒラヒラしてると、それで拭くのが人間の習性というか」
「そんな話、聞いたことないわ!信じられない」
「いやぁ!大石先生、失敗の巻だ、はっはっはっはっ」
「なに?そのバカ笑い。とにかく目を疑うようなことするの、やめてくれる?」
二十四の瞳の大石先生の名台詞を咄嗟に使ってウィットに富んだ幕引きを狙ったが、サバンナで遭遇したライオンに「話せばわかる」と言って徒然草を聞かせるような虚しい抵抗に終わったのである。
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