2008年3月24日月曜日

ごくろうさま

年明けから幕末の吉田松陰や高杉晋作など長州の人々の活躍を描いた『世に棲む日日』司馬遼太郎著(文春文庫、全4巻)を読み始めたのに、いろいろな読み物や雑事に忙殺され、第一巻を読んで中断していた。
この週末からやっと第二巻を読む気になり再開した。
やはり幕末モノは面白い。

吉田松陰と言えば、松下村塾の塾長として有名である。
彼の主義としては授業料は取らなかった。
それは彼が武士としてちゃんと藩から禄(ろく)を食(は)んでいたからである。
ただ本書によると、当時の藩校や寺子屋などでは、珍しいことではなく、むしろ授業料が不要であるからこそ“師弟”と言えるとのことである。
なるほど、目からウロコである。
だからこそ公務員としての小学校の先生は先生であって、我々とは師弟関係であったのだ。

授業料を払うならそれは商行為である。
私立の学校はビジネスだから、先生は生徒に「毎度おおきに」と言わねばならない。
柔道や空手の師範も、書道や算盤(そろばん)の先生も同じである。
偉そうにふんぞり返っていられてはこまるのだ。
むしろ経営努力をしてもらわないとこまる。

ピストン堀口道場の会長の母上は、時々店番(という雰囲気を醸し出している)をされている。
いつもニコニコとやさしい笑顔で迎えてくれる。
あの母上に限っては、とてもボクシングジムという雰囲気ではない。
だから敷居が低い。
会員証を出すと決まって
「はい、ごくろうさま。頑張ってね」
あの一言はいい。
師弟関係の師匠側の立場を残しつつ、ちゃんと商いとしての律儀さを表現している一言だ。
それに「ごくろうさま」は、ある種、プロ選手に掛ける声の転用とも取れなくはない気がして、そこがまたくすぐられるのである。

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