2008年5月12日月曜日

緑のインク

オフィスの朝。
早くカフェインを摂取せねばダメだ!と、あせってキッチンへ。
すると美人のYさんが何やらごそごそと。
私が来たことで、人の気配には気づいている筈だが、Yさんは無用な会話は好まないので、気づかない振りをして、黙々と作業を続けている。
どうやら食器洗剤の詰め替えをしているようだ。
凝(じつ)と見ていると、やっと私であることに気づいてくれ、微笑んでくれる。
「あっ!」
急にYさんは、関西のおばちゃんが驚いたような顔をして、そこから離れた。
私は珈琲を淹(い)れる作業を続ける。
暫(しばら)くすると戻ってきて、何やら私に渡す。
「あのぉ、これどうぞ」
「あっ、こりゃどうも」
と、なんでも受け取る私。
お返しに明治チョコレートを一片差し上げる。
「あ~、ありがとうございま~す」
Yさんの笑顔はいつも花が咲いたようだ。

徐(おもむろ)に包みを開けてみる。
OKICHIHIROBAのハンケチをいただいた。
先日プレゼントした本のお礼だと思うが律儀な娘(こ)である。
食器洗剤の詰め替え作業も、誰から云われたわけでもないのにやる、いまどき出来た女性である。

作詞が喜多条忠、作曲は吉田拓郎で梓みちよが歌った『メランコリー』
~緑のインクで、手紙を書けば、それはサヨナラの合図になると、誰かが言ってた~
なんて歌ってたが、それを云うなら、ハンケチをプレゼントするのは別れの合図、というのはもっと古典的だ。
しかし、一応そんなことを云ってみた。
「そういうことですかねぇ・・・」
と、絡(から)み辛(づら)そう。
髪を切った女の子に
「失恋したの?」
と尋ねるのと大差ないコメントを反省した。

そんな私の失態をカヴァアしてくれるように、Yさんはハンケチのデザインを説明してくれた。
「その折りたたみ方が、かわいいでしょ。ほら豆シャツって書いてあるでしょ。シャツの形になるように折ってあるんすよ。ネクタイはシールみたいに貼り付けてるだけだけど」
と云ってクスクスと笑う。
そうか!ネクタイをプレゼントするのは、“あなたに首っ丈(くびったけ)”というのも、同じく古典的な合図だ、などというコメントは、さすがの私も我慢した。

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