昨年、ジムの会長にいただいた本に、やっと取り掛かることができ、読み終わった。
『ラッシュの王者 ― 拳聖・ピストン堀口伝』山崎光夫著(文藝春秋)だ。
ジムの会長は、この拳聖と呼ばれた稀代のボクサーのお孫さんにあたる堀口昌彰氏。
本の帯には“昭和史に眠る連勝記録の謎”“不世出の大ボクサーがいた”とある。
日本連勝記録でもある47連勝(1933~37年)は驚異的だ。
総勝ち星も138勝で日本記録、194試合の最多試合ももう破られることはないだろう。
彼に関する本やビデオは数点持っているが、久しぶりに彼の記録を辿(たど)ると溜息が出る。
本書は、発見された彼の日記を、著者が借りることができ、その内容を転載することによって、人間臭さを表現することに挑戦している。
彼がボクシングと云うものに出合った昭和6年から3年後、まさに絶頂期の昭和9年1月1日の日記にこう記(しる)している。
~憂きことの なほこの上に つもりかし 限りある身の 力ためさむ。そうだ、今年はこの意気でやるんだ!~
引用した歌は、山中鹿之助の作というのが有力だ。
ピストン堀口のデビューからの試合もつぶさに見てきた評論家の郡司(ぐんじ)信夫氏は、10数年前、堀口昌彰会長が現役で日本チャンピオンに挑戦して惜敗したあとに、このように云っている。
「これだけ科学的ボクシングが普及するとどのジムでも指導法にそう違いはありません。ロードワークやスパーリングなどメニューは似たりよったりで、それをこなせばどの選手もある程度のラインには到達する。ところがチャンピオンになるボクサーは何かが違うのです。差はほんの紙一重です」
「結局、自分をどれだけ知るかでしょうね。知り尽くせば迷いはなくなります。それと勝負への執念です。人が飛躍するのは技術を磨いたときじゃありません。チャンスのとき、捨て身になれるかどうかです。ゼロになってかまわないと、すべてを賭ける気持ちで相手に当たらねば勝利は摑(つか)めません。精神力の差が勝敗に表れます」
多くの世界チャンピオンを育てた名伯楽エディ・タウンゼント氏も同じ意味の言葉を残している。
「・・・世界チャンピオンになれる、なれないは、どれくらいの差があるの?」
人差し指と親指を摘(つ)まむように見せて
「これだけよ。ほんとうにこれだけの差よ。わかる?」
“もうだめだ”と諦めるか、“あと少しだけ”と思って頑張れるかの差だと強調したと云う。
心身ともに僅(わず)かながら減退を感じる今日この頃、気張らず、焦らず、ゆるりと前進してまいろうぞ。
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