東京駅丸ノ内口、今の新丸ビルが建つ前、ビルの名前は知らないが、あの一等地にしては古ぼけたビルが最近まで建っていた。
正面なのに目立たぬ階段があって、地下に潜ることができた。
数軒の飲食店があり、いつも空(す)いていたので、いざというとき重宝したものだ。
一軒ワインバーらしきものがあって、ワインこそたくさん並んでいたが、造作(ぞうさく)は地方都市の駅前の喫茶店だった。
美人の店主がおり、男どもは鼻の下を伸ばして、見栄でそこそこのワインを頼み、満足そうに飲む。
つまみはチーズやサンドウィッチなど軽食中心だったが、メニューを見ると、ワインなどには縁もなさそうな客を見透かすように鉄火巻があり、丸の内一等地にこの店があることの違和感をさらに増幅させてくれ愉快であった。
今、未来都市のようなビルになって、あんな店作りや品揃えは許されないだろう。
垢(あか)抜けたというより、街が余裕を失ったように見える。
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