2008年6月5日木曜日

娘との対話

帰宅して3階の寝室に向かう。
スーツを脱ぐためだ。
一姫がついてきた。
一姫は高校三年生である。

一姫はニヤリと笑い、私のセミダブルのベッドに横たわる。
そして、私のフカフカの羽毛布団の上をローラーのように転がり、ペタンコにしていく。
「やめ給(たま)へ」
私が云うと、一姫は徐(おもむろ)に首だけ起こして云う。
「ねぇねぇ、あのさ。パパのことを外では“あのクソオジジ”と云って、家に帰ると一言も口をきかないのと、外では“あのクソオジジ”と云って、家に帰るとこうやってかまってあげるのと、どっちがいい?」
「前提条件、おんなじやん!」
お約束のように突っ込んで、私は踵(きびす)を返し、寝室から廊下に出て洗面台で手を洗い始めた。

一姫がついてくる。
「ねぇねぇ、パパ、パパ~。私って学校で男前って云われんだよね。ほら、髪切ったからさぁ」
「ふーん」
「へへへ、いいでしょう。男前って云われてんだよ。フェミニストになっちゃおうかな。」
「フェミニズムと云うのは、女性が経済的、社会的に自立することを支持することなのだよ。そう考える人がフェミニストなのだから、女のままでもフェミニストにはなれるのだが」
「だからさぁ、女の子にやさしくしてさ。かっこういいよね、そういうの」
「けど、君は女の子じゃないかね」
「いいじゃん、男前って云われてんだから」
「髪の毛のせいでしょ。いっそのこと、もっとカチッと固めてしまえばどうかね」
「そんなの、オッサンじゃん」
「そんなことあるものか。一寸(ちょっと)待って」
と、云って書斎から本を持ち出し、藤山寛美の写真を見せた。
松竹新喜劇『親バカ子バカ』に、あほなボンボン役で出て、ポマードで髪を七三にカチッと分けている写真だ。

一姫は
「もう、気分が悪い。実家に帰らせていただきます!」
と、云って自分の部屋に入っていった。

「(実家は)ここやんけ!」
との、突っ込みは、一姫が閉めるドアにぶつかった。

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