2008年6月27日金曜日

秋葉原

小学生高学年の頃だったか、裏に住んでいたおばちゃんが起業した。
近所でお好み焼き屋を開業したのだ。
最初は不味かったが、私の母のアドバイスもあり徐々に美味しくなり、私がファンになるくらいのレベルに達した。
ある日、お好み焼きを食べていると、おばちゃんが他の客と話していた。
変な男が包丁を持ってうろついていたとのこと。
おばちゃん曰く、
「あんなへっぴり腰では、刺されても腹には刺さらんわな」
そんなヤクザなコメントが、所謂(いわゆる)シロウトのおばちゃんの口から出て少し驚いた。

今夜は、秋葉原に行った。
駅から降りると妙に緊張感が走った。
歩きながらも、自分の脇腹に鋭利な刃物が刺さることを想像してしまって、少し足が竦(すく)んだ。
街は、先日の無差別殺傷事件がなかったかのように、ビジネスマン風の人や、定番のオタク風の人が行き交う。

駅近くの東京都中小企業振興公社へ。
今夜は6時半から、知り合いの大手スポーツクラブルネサンス幹部Tさんが主催する私的な勉強会“経験価値研究会”があり、それに出席するためだ。
会費二千円を支払い会場に入ると100人は軽く超えている。
私は初めての参加だが活況で驚いた。
開会の時にTさんは、半年以上も勉強会を開催しなかったことを詫びた。
ルネサンス佐世保で昨年12月14日に起こった銃乱射事件の影響だ。
凶悪事件が私の心に影を落とす。
半世紀近く生きてきたら色んなことがあってしょうがないことなのか、あるいは今の世の中が異常なのか、複雑な気持ちで勉強会に臨む。

最初のコマは早稲田大学大学院准教授の池上氏による『最新戦略論体系とマーケティングの関係-デルタモデル・ブルーオーシャン戦略・ポーターの戦略論等の統合マーケティング』。
いま流行のブルーオーシャンだけあって、なかなか面白い話が聞けた。
ただ90分の授業4つ分くらいの話を、50分で話したとのことなので、まぁそこはそういうことである。
続いて、NPO TABLE FOR TWO International事務局長の小暮氏による自らの団体の紹介。
氏によると、世界人口60数億人が食べるに十分な食料は地球上にあるそうだが、問題は配分が均等ではないということ。
飽食も問題だが、飢餓の国があるのに、食べ物を粗末にするわが国は猛省すべきだ。
ますます“食べ残しは許しまへんでぇ”の精神が必要だ。
最後のコマでは、NHKでも有名(らしい)な山梨大学准教授の中山氏が、現代の子供体力事情を軸に、文科省や体育協会、各地の教育委員会の現状などを話してくれた。
最近の子供の運動能力の低下は目を覆うばかりとのこと。
いろいろな遊びをやっていないので、高いところからの飛び降り方が分からず、極端な例では二段目の階段から飛び降りて、両足を骨折した子もいたらしい。
これでは『太陽にほえろ!』の七曲署の刑事にはなれそうにないな。

それにしてもこの勉強会に出席して、志の高さに感服。
ルネサンスのTさん、仕事に役立つからこのように健康に関する勉強会をやっているという感じではなくて、元々やりたいこと、すなわち世の中の人を健康にしたいという思いがあってのことであり、そもそも自分の仕事はその一つにすぎないのだ、という律儀さを感じた。
この感覚は“心洗われる心地よさ”とでも云おうか、初心に帰ることができたいい会合だった。
勉強会終了後、階下で4000円飲み放題で懇親会をやるとのことだが、あまりに大勢での会は苦手なので早々にその場は辞した。

電気街の方へ歩き、フラリと昭和29年創業の老舗居酒屋『赤津加(あかつか)』へ。
初めて入った店だが、店構えは入りにくかったが、入ってしまうと古臭さも手伝いなかなかに落ち着く。
お銚子を頼み、白身のお造りでチビリと。
品書きの“鶏のモツ煮込み”に目がとまり頼んでみる。
脱帽!
お銚子が一本増えてしまった。

路地を出てすぐにラーメン屋があったので入った。
屋号は『だるまのめ』。
最近乱立気味のラーメン専門店には、独特の雰囲気が醸成されたように思う。
客に品(ひん)がないのだ。
店も客に品を求めていない。
それが一体化してしまっている。
今流行(はやり)の品格という大げさな話ではない。
うまく説明できないのだが、客の頼み方、待ち方、食べ方、帰り方の行儀が悪いのだ。
猥雑(わいざつ)な飲み屋での、戯(ざ)れ言(ごと)や嬌声、またそこでの猥談(わいだん)にも、品はあるのである。
矢張(やは)り、うまく説明できない。
当(とう)を得ていないかもしれないが、本来は気楽なメニューであるべきラーメンなのに、何やら理窟(りくつ)を付けてみたり、行儀を強制する店主を、メディアが持ち上げてしまったことに遠因があるように思う。
とまれラーメンが食べたくなったら、中華料理屋に行くことにして、もうこの手のラーメン屋に行くのは止(よ)すことにした。
カウンターで左隣に座っていたにーちゃん(兄ではない)も、なんかイライラしていた。
接客は全員中国人スタッフの女の子だったが、兎(と)に角(かく)目配りがない。
隣のにーちゃんが替え玉と追加スープを頼んで、替え玉が来たのはいいが、一向にスープが来ず、にーちゃんが催促しても、女姐(しゃおちえ)たちは
「ショウショウオマチクダーイ」
を繰り返すのみ。
やっと来たスープを入れてにーちゃんは食べ始めたが、よほど憤慨したのか半分くらい残して帰ってしまった。
にーちゃんがヒステリーを起こして、悠然と食べている私を横から刺さないかと、小心な私はヒヤヒヤした。
帰るときまで秋葉原には緊張だ。

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